ほら、そうやってすぐ死ぬ。



「なんですかー? それ。」

腐った声の方の女が白々しくそう言った。

「掲示板サイトですよ。あんたらのボスが運営してるサイト……いや……。」

金子はマティーニのグラスを持って、立ち上がり、

「……汚い川かな。」

金子はグラスを地面に落とした。

ガッシャーンッ!

周りがシーンとして、それからざわざわとし始めた頃に、ボーイが飛んできた。

「すぐに代わりをお持ち致します。」

そう言ってしゃがんでグラスの処理をするボーイの手を金子は踏みつけた。

「ぐぉっ!……。」

ボーイの手が血で滲み、ドラキュラとガマガエルが「キャー!」と声を上げた。

金子はボーイのムースでガチガチに固められた髪の毛を掴み、自分の顔を近づけた。

「Kに会わせろ。」

ボーイは何のことだかわからないという顔をしている。そりゃそうだろう。このボーイ。どこからどう見ても20歳前後の大学生。それもお金に余裕のない苦学生。どうせ、俳優だかモデルだか、しょーもない夢を追い求めて上京したけど、結局何をどうやればいいのかわからず、とりあえず時給のいいこのバーでバイトしながら何となく生活しているような男だ。

Kという名前も『なでっこなでしこ』という存在すらも知らないだろう。

そんな男を捕まえて、手のひらをぱっくり割られ、自分より明らかに年下の男に髪の毛を掴まれている。この男はきっと東京は怖いと思ったはずだ。



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