ほら、そうやってすぐ死ぬ。
しかし、こうなってしまうとどうにもならない。
目の前のタイソンはただのタイソンであって、Kではない。Kに関する情報は完全に費えたことになる。
Kよ。キミのせいで私は小指を失ったぞ!
小指が痛む。じんじんじんじん痛む。抜歯をして、麻酔がきれた時のような感覚に似ている。じんじんじんじん。
私はタイソンがKだと思っていた。だから小指を切った。Kに対する忠誠心を見せるためだ。忠誠心があるということと同時に、敵意がないということを示すことによって、Kに心の隙ができる。その隙を突く。相手がどんなに裏社会で強かろうが、心を許した時点であっという間にやられる。織田信長のように。
ただ、この無駄な忠誠心が……じんじんじんじん。
何だったんだ、この時間はじんじん……頭を思いっきりかち割ってしまいたいじんじんじん……それほどの、ああ、それほどのじんじんじん……痛み……じんじんじんじんああ、うるさい!
痛い! 憎悪に満ちた痛み。
この痛みを何かで紛らわせるしかない。
葉巻の銘柄は……わからない。そうだ! タイソンの腕時計……ロレックスのサブマリーナ・デイト。ああ、高い言い時計をしてやがる。よっぽど稼げるらしい。バーでの稼ぎなのか、汚い川から拾い、水で洗った金なのかは知らない。母さんを殺して手に入れた1600万のうちのいくらかかもしれない。またはその金は車にでもなっているのかもしれない。レンジローバーってところだろうか。
そんなことを考えても一向に痛みは治まらない。じんじんと響く。
「まあ、そういうことだ。キミらがKに会ってどうするかは知らないし……いや、知らない方がいいだろう。多分、知った途端、俺たちはキミらをここから生かしては帰さない。」
私と金子は店を追い出された。
この痛みは忘れない。絶対に。