ほら、そうやってすぐ死ぬ。
そのまま金子から電話がかかってくることはなく、アパートに着いていた。
戸倉さんもちょうど仕事から帰って来たばかりのようで、例のチェスターコートを着たまま、ぼけーっと口を半開きにしたまま……小指が疼く。連日報道されているタイソンの変死事件の報道を見ている。
『……先ほどもお伝えしましたが、新宿2丁目の飲食店員が遺体となって見つかった事件で、不可解な点が明らかになりました。』
秋田のお土産に買ってきたもろこしあんを頬張る戸倉さんを他所に私はサバイバルナイフをそっと出して、自分のディッキーズのリュックにしまった。そして、白々しく戸倉さんの元へ行き、もろこしあんを摘まみながら、
「最近このニュースで持ちきりですね。」
「ほんと物騒よね。早く犯人が捕まればいいんだけど。」
戸倉さんはここでやっとチェスターコートを脱ぎ、実際の価値とはかけ離れた、まるで孫をあやすかのように、ブラシがけをし、クローゼットにしまった。
それからお互いに会話はなかった。狭いアパートのリビングではニュース番組が流れているだけで、まるでスーパー銭湯の休憩室のようだった。いや、休憩室の方がましかもしれない。この場合、相手は全く知らない他人であって、会話をする義理はないと割り切れる。でも、今こうしてもろこしあんを飽きもせずに食べている戸倉さんは、戸倉さんであって、知り合い。同居人。お互いがお互いを知ってるだけに、自然に会話が生まれるのが、自然であって、会話が生まれない不自然さが異様な空気を醸し出す。