ほら、そうやってすぐ死ぬ。



あ、あれ?

私……泣いてる。

ああ、泣いてる。これが涙。涙だ。

頬に伝わって、それがカーペットを濡らす。戸倉さんのカーペット。ダメだって! ダメだってば!

泣いちゃダメ。そう言われたのに……誰に?

「紗栄子、泣いていいんだよ?」

なんで?

「泣きたいときには泣いていいんだよ?」

なんで、私泣いてるの?

だって、だって、私。

嬉しい! 限りなく嬉しい!

この上なく嬉しい!

私は戸倉さんを信じていない。それなのに、戸倉さんはこんなにも信じてくれていた。

血のつながりもない、何なら金子よりも付き合いが浅いそんな私のことをここまで想ってくれている!

性的な目で見ているから? どこが? 性的な目で見ていたらこんなことまで言えるか、普通!

「紗栄子。もう我慢しなくていいんだよ? ほら。」

戸倉さんは私を抱きしめてくれた。温かい抱擁で、優しい。

心地良い。ああダメだ!

こんな在り来りな言葉、私のボキャブラリーの無さにも泣けてくる。

こんなにも嬉しいのに、この嬉しさを表現できない!

その代わりに涙が溢れてくる。

涙が、ああ、涙が溢れてくる。



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