ほら、そうやってすぐ死ぬ。
金子に電話した。
金子にはKを殺したことを伝えておきたかった。金子にはちゃんと伝えて、それから私はいなくなる。
どこか遠い町で暮らす。静かに。一人で。でももし……もし金子がついてきてくれるならどんなにいいだろう。
私は金子に惚れている。金子が好きだ。
あの浴室で二人身体を重ね合わせたあの日から、ずっと。ずっと。ずっと……。
佐野くんの時とは違う。一目惚れのボジョレー・ヌーボーのような一過性の恋じゃなく、ずっと熟成されたファーニエンテのような恋だ。
呼び出し音が続く。プルルルr……続く。なかなか出ない。焦らしてくれるじゃないの、金子のくせに。
金子伸介。学校の委員長で、殺し屋をやっていて、櫻子のことが好きだった男。
でも、今日からは私のための金子伸介になる。あの浴室で二人で身体を洗い合って、罪を洗い流す。それから、さっぱりした顔でこの部屋を出て、遠くへ行くのだ。
400万を使って小さなアパートを借りる。戸倉さんのアパートよりもボロくて狭くて、でもいいの。金子がいればそれだけでいい。私は満たされる。
そして、金子は仕事を探し、私もアルバイトを始める。二人の休みが合えば動物園や水族館へ行く。車の免許を取る。400万を切り崩して、中古の軽自動車を買う。
金子の仕事が安定し、プロポーズされる。給料3ヶ月分というやつだ。それから役場に婚姻届けを持っていき、小さな教会で結婚式を挙げて、子供は二人。一人目は女の子で二人目が男の子。私に似ないでほしい。金子に似てやんちゃで、思いやりがある子に育ってほしい。家を買って、ファミリーカーに変える。
やがて、子供たちは思春期を迎える。私は子育てに悩むだろう。金子と夜な夜な相談する。どう育てていくか、どう接するべきか話し合う。それから子供もやがて自立する。私たちは老後をお迎えがくるまで静かに過ごす。
ここまでの人生設計ができている。