甘いささやきは社長室で

見せてください






狭いエレベーターの中で交わされた、彼との二度目のキス。それは、溶けそうなほど甘いキス。



なんで、いきなり

そう思う半面、その唇を拒めなかった自分が憎い。



『もしかして、気持ちよかった?』



なんて、そんな訳ない。ありえない。

きっと、ない。







エレベーターでのキスから、土日の休日を挟み、明けた月曜日。

私はひとり、駅のトイレの鏡の前で自分の顔とにらめっこをして、出勤前のひとときを過ごしていた。

鏡に映るのは、薄く色のついたリップの塗られた自分の唇。



……また、キスをしてしまった。

いや、正確には『された』が正しいけど。



付き合ってもいない相手と、二度もキスをするなんて……しかもあんなチャラチャラした男と!

私、そんなに隙があるんだろうか。口ではあれこれいって、チョロい女なんだろうか。



「ない、ないないない、そうじゃない、違う、違うんだから」



ひとり言をブツブツと呟き、自分に言い聞かせる。


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