甘いささやきは社長室で



そして、迎えた午後15時すぎ。

休憩時間もなしで仕事を片付けた私は、それからスーパーに寄って、買い物をして、電車に乗って三木さんから教わった住所へと向かった。



「ここ、だ……」



手元の住所とスマートフォンに表示された地図、そして目の前の『シーサイドタワー』と書かれたマンション名……。

それらにここが目指していた桐生社長の自宅のあるマンションだと知るものの、私は唖然と建物を見上げた。



そこにあったのは、緑豊かな広い敷地の中にどんと構えた、30階はあるだろう縦にも横にも大きなマンションだった。

部屋数も400戸はあるだろうか、自分の住む木造3階建てアパートとははるかに違うその建物に、やはり違う世界の人なのだと改めて思い知る。



三木さんから聞いたロックナンバーを入力し、エントランスへ踏み込めば、綺麗に輝くツヤのある白い床に一層高級感を感じる。

家賃、いくらくらいするんだろう……私の家の倍以上なのは確かだろうけれど。



「えーと、桐生社長の部屋は25階の327号室……」



目の前のエレベーターで25階を目指し、しばらくして着いたフロアで降りると、白い壁に茶色い床、ほんのりと照らす明るすぎない照明の廊下が続いていた。

そしてその中の一室、『327』と書かれた部屋の前で足を止める。


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