甘いささやきは社長室で
「そんなフラフラな体で襲えるとでも?逆に襲われたくなかったらおとなしくしててください」
「は、はい……すみません」
いつもはなにかと私が攻められる方だけれど、体調の悪い彼と健康な私となれば立場も逆転する。
強気で「ふんっ」と鼻息を荒くし壁から手を離せば、よく見ればその顔はほんのり赤い。
「まずはご飯食べて冷却シート貼って寝てください。熱は何度あるんですか?」
「えーと……」
そう言いかけたその時、彼の体はふらーっとこちらに向かって倒れてくる。
「わっ!?桐生社長!?」
「目が……目がまわる……」
「はぁ!?って、すごい熱じゃないですか!!」
慌ててその体を支え額に手を当てれば、その熱さからかなりの高熱があることが分かる。
こんな高熱で普通に話していたの!?大分無理していたんじゃ……とりあえず、ベッドに寝かしつけよう!
自分より20センチ以上大きなその体を必死に引っ張り、細い廊下を歩いていく。
当然間取りすらもわからないものだから、勝手に見て悪いと思いながらも手前からドアをひとつひとつ開け、寝室を探した。
手前から脱衣所、その奥にバスルーム。隣のドアはトイレ……その隣はウォークインクローゼットに物置。
さらに隣のドアを開ければ、7畳ほどの寝室があった。
「っ……ふう!」
部屋の窓際に置かれた大きなベッドに桐生社長を寝かせ、毛布と掛け布団をかける。そしてその茶色い前髪をそっとどかすと、冷却シートを額に貼り付けた。