甘いささやきは社長室で
「……ん……」
それから数時間が経ち、窓の外がすっかり暗くなる頃。
ベッドの横で本棚の本を勝手に読んでいると、聞こえた小さな声に目を向ければ、そこには桐生社長が薄く目を開けていた。
「あ、起きました?体調どうですか」
「なんで、僕ベッドに……マユちゃんも、ここに?」
「私が運んで、それから看病してたんです。ちょっと失礼しますね」
倒れたあたりから記憶がないのか、状況が把握できていないらしく『?』を浮かべる彼に、私は彼の額に手を当て感覚で熱を測る。
「さっきより下がってるし、汗もかいてますね。これなら明日には治るかと」
「うん、さっきより全然ラク……」
よかった、と安心しその場が穏やかな空気に包まれる中、「それにしても」と私は横目で彼を見る。
「なんで三木さんには連絡して私にはしないんですか。結局バレるのに」
「……熱で休むなんて言いたくないじゃん。かっこ悪い」
「秘書相手にかっこつけてどうするんですか、まったく……」
病人にも容赦なく怒ると、彼は「すみません……」と苦笑いをした。こういうところは、まるで子供のようだ。