甘いささやきは社長室で
そんな桐生社長に、私はそっと頬を撫でる。
「それにこんなことでカッコ悪いとか思いませんから。つらい時はちゃんと甘えてください」
余裕がなくても、情けなくても、そんな顔だって見せてほしい。
頼ってほしい。
支えたい、力になりたいと、この心は願うから。
「じゃあ、書類仕事がつらいので今度からそれを減らしてもらえると……」
「それは甘えさせません」
ってまたすぐ調子に乗る!
頬から手を話しながらビシッと厳しく断ると、「手厳しいなぁ」と笑顔を見せる。
まだ本調子ではないものの、いつもと同じその笑顔につられて私も笑みをこぼした。
すると、桐生社長は横になったまま伸ばした手で今度は私の頬にそっと触れる。
指先からじんわりと伝うのは、いつもより高い体温。
「……マユちゃん、最近よく笑うようになったよね」
「そうですか?」
「うん。ちょっと前までは毎日こう、キリッとしてツンとしてるか怒ってるか呆れてるか……まさしく氷の女王、って感じだったけど」
言いながら、キリッと無愛想な私の顔を真似してみせるその顔に、バカにされている気がして私の表情も無表情となる。
それを見て、彼はまたおかしそうに笑った。