甘いささやきは社長室で
「うん。そんなマユちゃんの完璧さは、考えに考えをまとめたうえで成り立ってるってことにその時初めて気付いたんだ。だからこそ、予想外のことが起きた時の顔が見てみたかった」
「その結果が最初のアレで、蹴られたわけですけど」
「ね。でもいいんだよ。怒って、呆れて笑って、そんな顔が見たかったから」
私の、いろんな顔が見たかった?
その言葉に、ようやく知る。
いつも私が反応をするたびに嬉しそうに笑っていた理由。私の表情はいつも、彼によって引き出されていたんだということ。
「おかしいね。マユちゃんのいろんな顔を見たかったのに、気づけば自分の表情が引き出されてる」
それはきっと、彼の心の変化を意味しているのだろうか。
私の心が、彼を知り変化していくように、その心も、私を知り変わっていく?
「ありがとね、マユちゃん」
ささやく言葉は、胸の奥へとじんわりと染み込んでいく。