甘いささやきは社長室で
三木さんに続くように廊下を歩き、エレベーターに乗り、このビルの最上階……12階に着く。
一番奥にある大きなドアの前で足を止めると、三木さんはコンコンといい音を立てノックをした。
「社長、失礼します。真弓さんをお連れしました」
その言葉とともに開けられたドアに、緊張で息がぐっと詰まりそうになりながら、室内へ踏み込む。
「……失礼します」
初めて足を踏み入れた社長室は、黒い床に白い壁というモノトーンな色合いを大きな窓からの光が明るく照らす。
壁際に置かれた横長い大きな水槽には色とりどりの熱帯魚が泳いでおり、開放感にあふれた印象だ。
けれどその一方で黒い長方形のテーブルの上には、書類や雑誌、パソコンなどがごちゃごちゃと置かれ、その性格の適当さが目立って見えた。
「あ、来た来た。おはよー」
その部屋の片隅で立ったまま書類を読むその姿は、私を見つけると笑って声をかけた。
ストレートの茶色い髪に、今日は紺色のスーツ。ストライプ柄のワイシャツにえんじ色のネクタイをした彼は、微笑むだけで様になり、つい目を奪われてしまう。
けれど、へらっと笑うその左頬には白いシップが貼られていて、それがまた昨夜の自分の行いを思い出させた。