甘いささやきは社長室で
ぱち、と目を覚ますとそこには見慣れない白い天井がある。
ここは……確か、出張先のホテルで、昨夜は……。そこまで考えて、はっと思い出し勢いよく体を起こした。
見渡せば、朝日に照らされた室内には誰もおらず、静けさだけが漂っている。
自分の服も、白いトップスに黒いスカート、ストッキング……と、寝たときのままだ。
やっぱり、なにもなかった。安堵に小さく息を吐くと、アルコールの匂いがほのかに香る。
「……まずい、匂い残ってる」
口臭ケアのガムでも買って行こう……。
そう、寝癖で乱れた髪を手ぐしで直していると、部屋の端ではドアが開く音がした。
ん?誰かいる?
「あ、マユちゃんおはよー」
ちらりと視線をドアの方へ向けると、そこにあったのは桐生社長の姿。
……それも、スラックスに上半身裸で顔をタオルで拭くという格好で。
「って……な、なんて格好してるんですか!変態!」
「変態って……顔洗うのに上脱いだだけなんだけどなぁ」
寝起き早々に驚きを表し声をあげた私に、桐生社長は濡れた顔と前髪をタオルで拭いながら笑う。
そんな彼の顔から、つい視線が向くのはほどよく筋肉のついたその体。
外食が多く食事もよく食べる生活に反して、
そのウェストは締まっているし、腹筋は割れている。
スーツを着ている時に感じる印象と比べてしっかりとした体に、日頃からきちんと鍛えているのだろうことを知る。