甘いささやきは社長室で
「お、おはようございます……あの、昨日はすみませんでした」
「ん?あぁ、いいよいいよ。頼もしくてなにより」
あいさつもそこそこに深々と頭を下げて謝る私に、桐生社長はまったく気にしていない様子で笑う。
昨夜のことについてはなにも聞いていなかったのか、私の隣では三木さんが意味がわからなそうに話を聞いている。
「んじゃ、これからよろしくね。新しい秘書さん」
「は?」
「え?」
新しい、秘書?
社長ににこりと笑って言われたことに、私は意味がわからず首をかしげた。
そんな私の反応を見て、三木さんは『あれ?聞いてなかったの?』といった様子で首をかしげ、その場にはそれぞれに『?』マークが浮かんだ。
「新しい秘書って……なんですか?それ」
まったく意味がわからずに、ひきつった顔で問いかける。
「え?昨日桐生社長から説明受けませんでしたか?部署異動の件」
「いえ、私は昨夜不審者と誤解して桐生社長の顔を蹴っただけで、それ以外にはなにも」
「は!?不審者!?なにしたんですか社長!!」
社長を蹴ったことを怒られるかも、という予想に反して、三木さんは桐生社長に対して怪訝な顔をしてみせる。
けれどそんな顔を向けられてもなお、彼はにこにこと爽やかな笑みのまま。