甘いささやきは社長室で
「大切な婚約者、ね……なかなか嫌味っぽい言い方だねぇ」
「嫌味なんて言ってません。ただの事実です」
目をそらしたまま冷たく言い切ると、腕を掴んでいた右手は離される。
そして私の顎をクイっと持ち上げ、突然距離を縮めたかと思えばキスをした。
「んっ……」
いきなり、なにを……!
驚き、すぐはねのけようとするものの、彼はその胸を叩く私の両腕を掴むと壁に押しつける。
そして自由がきかなくなった私に、さらにキスを続けた。
むさぼるような、荒々しいキス。
その唇は、必死になにかを伝えようと私の唇に吸いつき、舌を絡め、口付ける。
なんで、キスなんてするの。
なんで、やめて。だって。
「っ……」
溢れだしそうになる想いに、私は彼の唇をガリッと噛んだ。
痛みにほんの少し緩んだその手をふりほどき、桐生社長から距離をとる。