甘いささやきは社長室で
桐生祐輔、32歳。
食品会社のグループを持つ父親の子会社のひとつ、株式会社セントラルフーズを社長として経営している。
母親に似た顔、父親に似た経営者としての頭、それらになにひとつ不満なく生きてきた。
そんな日々に、頭を占めるものがひとつ。
「……あれ、」
先ほど彼女から渡された書類の束に目を通すと、『全15枚』と書かれたその用紙が14枚しかないことに気づく。
1枚足りないや……抜けてしまったのだろうか。今日は会議で忙しいって言っていたし、自分で取りに行こう。
そう決めると、僕は社長室を出て、ひとつ下のフロアにある秘書課のオフィスへと向かった。
エレベーターで1階下へくだり、やってきた秘書課のオフィス。
ドアを小さく開け中を覗き込むとまだ会議は始まっていないらしく、数名の各部署の秘書たちが室内に散らばり話している。