甘いささやきは社長室で



僕自身はなんてことない気持ちでも、『社長がオフィスに現れた』となると、皆がざわついてしまう。

だからできれば、誰の目にもつかずにマユちゃんを呼び出したいんだけど……。と思うものの、見つけたマユちゃんの姿はオフィスの一番奥のほうにある。



……目につかず、は無理か。

そう諦め彼女を呼ぼうとした、けれど。よくよく見ればマユちゃんは三木となにやら話をしている。



なにを話しているかは聞こえないけれど、なにかを言った三木に、マユちゃんは少し困った顔をして、うなずく。

そしてこぼされたのは、柔らかな笑み。



……笑って、る。

自分以外の、男の前で。



そんな景色に声が詰まった。



「……見て見て、真弓さんが笑ってる」

「わ、本当だ。めずらしい」



すると聞こえてきた声は、オフィスの入り口で話す2名の女性社員のもの。

彼女たちもマユちゃんと三木の姿を見ながら、背後にいる僕に気づくことなく話を続ける。



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