甘いささやきは社長室で
「そう言われましても。私ただの社員ですから秘書検定も持っていませんし、見ての通り愛想もありません。桐生社長のお力になることもお客様の対応もできません」
「いやぁ、立派なボディガードにはなると思うよ?」
「社長はちょっと黙っててください!」
はっきりと断る私に、桐生社長は親指を立てうなずく。そんな社長に三木さんは怒り……話はなかなかまとまらない。
「真弓さん、その点は心配いりません。 あなたほどの人ならすぐに仕事も覚えられますでしょうし、資格も後々取ってもらえれば大丈夫です」
「けど……」
「それに、社長が『真弓さんがいい』って言ったときに自分が了承した理由のひとつが、その愛想のなさですから!」
愛想のなさが、理由?
意味がわからず首をかしげた私に、三木さんは胸を張り、一方で桐生社長はデスクに寄りかかり話を聞いている。
「これまでの秘書たちは、社長がマイペースに外出しようが、苦手な書類仕事をサボろうが、あの顔に甘いことを言われて丸め込まれたら注意もできず……」
「マイペースでも業績伸ばしてるんだからいいじゃーん」
「尻拭いは俺がやってるんですよ!ったく……ですが氷の女王と名高い真弓さんならきっと、甘やかすことなく社長を管理し動かしてくれるはずだと思うんです!」