甘いささやきは社長室で



社会人となって5年ほどが経った、27歳の時。父から、当時すでに経営が傾き始めていたこの会社を与えられた。



『立て直せるかどうかは、社長のお前次第だ』



その父の言葉に火をつけられたように、自分に出来る限りの情熱で仕事に打ち込んだ。



まずは、経験の浅い自分なりに情報網を作ろう。

会社の体質から変えて、世の中は自分たち食品会社になにを求めているのか、どんなものが流れているのかを常に把握しよう。



そうひとつひとつをこなしていくうちに、いつしか会社は良い方向へと伸びていった。



『成長中の食品会社の若き社長』、そう呼ばれることが増えていくと、それに伴うようにいっそう異性から声をかけられることが増えた。

けど、どうしても女性相手になると冷静になってしまう。



大体は見た目や立場に目がくらんで、中身なんて見ちゃいない。

中身を見て真剣に付き合ってくれようとする人も中にはいたけれど、それでも僕は、彼女の気持ちに応えたいとか思えなかった。



どうせ今だけ、そう思うと、そもそも興味すらわかなかったんだ。



< 152 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop