甘いささやきは社長室で
彼女自身も、かわいらしい顔立ちに柔らかな話し方、優しい性格、と文句のつけようがないくらい素敵な女性だ。
会ううちに彼女が心を寄せてくれているのも、どことなく感じとれる。
なんとなく一緒になるのも悪くないかなとか、そんな僕のことも優しい彼女は許すのだろうとか、ずるいことばかり考えていた。
「……あの、祐輔さん」
すると花音は、それまで手にしていたフォークを置き、改めて僕を見る。
「ん?なに?」
「私たち、その……こうしてお会いするようになって、来週で一年になりますよね。……そろそろ、恋人という関係に進みたいと、私は思うのですが」
それは、一年前に僕が花音に言ったこと。
『いきなり結婚じゃなくて、せっかくなら互いのことを知ってから、恋人、夫婦になっていかない?』
そもそも結婚に乗り気ではなかった自分のささやかな抵抗と、その一年の間で彼女が『やっぱりいやだ』と言い出すことを期待して、言ったことだった。
……けど、その心は思った方向と逆に向かったようで。自分のずるさが際立っただけだった。