甘いささやきは社長室で



「父が決めた結婚ですが、私は本気です。……祐輔さんの心に想いがなくても、それでも構いません。私は、あなたが好きです」



花音はそうまっすぐに見つめて、言い切った。

笑顔なくその顔を見つめかえすと、ふたりの間にはピアノの美しい音色だけが響く。



花音は、気づいてる。

こうしてふたりで過ごす瞬間も、僕の心に花音はいないこと。

無意識に思い浮かべる顔は、無愛想な“彼女”のものだということ。



いつものように優しさに誤魔化すことも、逃げることも簡単だ。

けど、きっとそれは違うから。



『本当は真面目で努力家なあなたと共に生きたいと願う人も、いるはずですから』



僕が今どうするべきか、その義務に従うのは簡単だ。だけど、大切なのはどうしたいかだ。

誰といたいか、誰と話をしたいか。

誰のことを想って、抱きしめたいか。



「……僕の話、聞いてくれる?」

「え?あ……はい」



突然切り出した話に、花音は不思議そうに首を傾げてから、小さくうなずいた。



僕の、正直な気持ちを話そう。

一途な気持ちに、一途で返すんだ。




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