甘いささやきは社長室で



三木さんは熱弁し、パンッ!と私へ手を合わせる。



「自分もサポートしますから!お願いします!」



そして眼鏡が吹き飛びそうな勢いで頭を深く下げた。



三木さんがそこまで懸命に頼み込む一方で、桐生社長は長い足でこちらへ近づく。

隣に立つと、離れて見るより大分背が高いことに気づく。158センチと平均的な身長の私に対し、20センチ以上は高い……いや、180センチはあるかもしれない。


けれど威圧感を感じさせることのない笑みで、私の肩を抱くように馴れ馴れしく手を置いた。



「三木もここまで頼んでるわけだし、どう?僕も、キミみたいな美人秘書だったら仕事はかどりそうで嬉しいなぁ」

「……私は苦労が増えそうなので嫌です」



その手をパシッと叩き払うと、桐生社長は「ふーん」と口を尖らせる。かと思えば、シップの貼られた左頬をさすりながらため息をついてみせた。



「あーあ、頬が痛むなぁ。昨日キミに蹴られた頬が未だに痛くて……支えてくれる美人秘書がいないと仕事にならないなぁ〜」

「なっ!」

「僕がこうも仕事にならないとしたら、きっと会社もダメになるだろうなぁー。そしたら社員もその家族も共倒れ……あーあ、恐ろしいなぁぁ〜」



なんて白々しい言い方!

まるで責任のすべてを私になすりつけるようなその言い方に、一瞬ムッとするものの、なんと言われようと私が彼を蹴ったことは事実。反論はできない。



社長秘書だなんて、今の仕事から一気に環境が変わるような仕事、ただでさえいやなのに、こんな人の秘書だなんてもっといやだ。

けれど、三木さんには頭を下げられ、桐生社長からは顔の傷を見せつけられ……ここまでされては、拒否権はないようなものだ。



< 16 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop