甘いささやきは社長室で
三木さんは熱弁し、パンッ!と私へ手を合わせる。
「自分もサポートしますから!お願いします!」
そして眼鏡が吹き飛びそうな勢いで頭を深く下げた。
三木さんがそこまで懸命に頼み込む一方で、桐生社長は長い足でこちらへ近づく。
隣に立つと、離れて見るより大分背が高いことに気づく。158センチと平均的な身長の私に対し、20センチ以上は高い……いや、180センチはあるかもしれない。
けれど威圧感を感じさせることのない笑みで、私の肩を抱くように馴れ馴れしく手を置いた。
「三木もここまで頼んでるわけだし、どう?僕も、キミみたいな美人秘書だったら仕事はかどりそうで嬉しいなぁ」
「……私は苦労が増えそうなので嫌です」
その手をパシッと叩き払うと、桐生社長は「ふーん」と口を尖らせる。かと思えば、シップの貼られた左頬をさすりながらため息をついてみせた。
「あーあ、頬が痛むなぁ。昨日キミに蹴られた頬が未だに痛くて……支えてくれる美人秘書がいないと仕事にならないなぁ〜」
「なっ!」
「僕がこうも仕事にならないとしたら、きっと会社もダメになるだろうなぁー。そしたら社員もその家族も共倒れ……あーあ、恐ろしいなぁぁ〜」
なんて白々しい言い方!
まるで責任のすべてを私になすりつけるようなその言い方に、一瞬ムッとするものの、なんと言われようと私が彼を蹴ったことは事実。反論はできない。
社長秘書だなんて、今の仕事から一気に環境が変わるような仕事、ただでさえいやなのに、こんな人の秘書だなんてもっといやだ。
けれど、三木さんには頭を下げられ、桐生社長からは顔の傷を見せつけられ……ここまでされては、拒否権はないようなものだ。