甘いささやきは社長室で



「僕の会社にさ、『氷の女王』って呼ばれる女性社員がいるんだけど」

「氷の……すごいあだ名ですね」

「本当だよね、でも本人は全然気にしてないからびっくりするよ」



笑って言うと、つられるように花音もクスクスと笑った。



「クールでにこりともしなくて、厳しい人でさ。聞いた話、思ったことは上司や先輩相手にも言っちゃうから、ついつい皆圧倒されちゃうらしくて」

「ふふ、真っ直ぐな方なんですね」

「うん。彼女は僕にも容赦がなくてね。出会い頭に回し蹴りをされて、ちょっとちょっかいを出したら怒られたりして」



思い出すとこぼれる、苦笑い。けれど、出来事すら彼女との間にあった大切なこと。

グラスの中の水をひと口飲み、見つめた窓の外には東京の灯りがきらめいている。



「けど、素直な人なんだ。悪いと思ったら謝るし、ありがとうもきちんと伝えてくれる。その場の空気に気づきやすくて、さりげなく庇うのが上手で……たまに見せる笑顔が、すごくかわいい」



不器用に謝って、不服そうながらもありがとうを伝えて、そんなひとつひとつがかわいいと思える。


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