甘いささやきは社長室で

正しいことってなんですか





いつもと変わらぬ、平日の朝。

照明が反射して輝く床を歩けば、ヒールの音がコツコツと廊下に響き渡る。



茶色い大きなドアの前で足を止めると、金色のドアノブには自分の顔が写り込んだ。

寝不足の目元を隠すように、しっかりとファンデーションを塗った顔。気を抜くと沈みそうになる表情に、顔をキュッと引き締めて、ドアノブを握った。



「失礼します」



柔らかさのない声で言いながら部屋へ入ると、そこには変わらぬ社長室の中、水槽の前に立つ姿がある。

黒いスーツにストライプ柄のワイシャツ、えんじ色のネクタイを合わせた彼は、水槽の魚に餌をやる手を止めて私を見た。



「おはよ、マユちゃん。今日の予定は?」



にこ、と向けられる笑顔に返すのは愛想のない表情。



「全てこちらにまとめてあります。私は今日秘書課の会議にかかりきりになってしまいますので」



いつもならあれこれと言葉にして伝えるけれど、ここ数日はこの調子だ。

そっけなく言うと、スケジュールをまとめた紙と「こちらの書類も確認お願いします」と、クリアファイルにまとめた書類数枚も渡した。



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