甘いささやきは社長室で
「秘書課にいますので、なにかありましたらお呼びください。失礼します」
そしてそれ以上彼になにかを言わせる隙も与えず、会話を終わらせるように礼をすると、スタスタと部屋を後にした。
……その間、たった1分。
気まずさを感じるほど、彼と接する時間が短くなっていく。
『あなたが社長だから、逆らえないからキスをしただけ』
自分で線を引くように言ったこと。なのに思い出して、へこんでる。
あの日から、一週間。
露骨すぎるほど桐生社長と距離をとるようになった私は、仕事以外は会話をしていない。仕事の話ですらも、先ほどのように最低限。
そんな気まずさや空気を察してか、彼自身もベタベタと触れてくることはなくなった。
……当然、か。
『社長だから』なんて、あんな言い方をされれば誰だって、近づこうなんて思えないだろう。
正しいと思う言葉を選んだはず。なのに、この空気に胸の痛みは止まらない。
……三木さんには悪いけど、異動させてもらおうかな。
個人的な感情でそんな頼みをするのは心苦しいし、社会人としてどうかとも思う。けど、もともと『次の人が決まるまで』って話だったし、次の人さえ見つければいけるんじゃないだろうか。