甘いささやきは社長室で



「おはようございます、真弓さん」



社長室のあるフロアから降りてきた先にある、秘書課のオフィス。そこで呼ばれた名前に振り向くと、背後には三木さんが立っていた。

にこりと笑う彼に、「おはようございます」と小さく答える。



「これ、経理部からの書類。社長に渡して貰ってもいいですか?」

「あ……はい、わかりました」



手渡される書類とともに出た『社長』の言葉に、自然と気持ちが沈む。

大きく顔に出してはいないつもりだけれど、そんな些細な私の表情を三木さんは見逃さず目に留めた。



「あれ……真弓さん、どうかしましたか?」

「え?」

「元気がないように見えるので」



その問いかけに、『そうですか?』と誤魔化そうとして、ためらう。

……異動の相談をする、いい機会かもしれない。



「……あの、折り入ってご相談があるんですが」

「相談、ですか?」



突然の私から切り出された話題に、三木さんは不思議そうに聞き返すと、少し考えて「あ、なら」と思いついたように言う。


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