甘いささやきは社長室で



「……次の人が決まるまで、臨時でいいのでしたら」



諦めたように溜息混じりに言うと、上げられた三木さんの顔はぱあっと明るくなる。



「ありがとう!ありがとうございます!!」

「やったねぇ、よかったね三木〜」

「そもそも社長がしっかりしてくだされはいい話なんですけどね!?」



他人事のようにへらへらと笑いながら、桐生社長は笑顔ひとつ見せない私の頬をつんつんとつつく。



「それにしても表情崩れないねぇ、噂通りの氷の女王」

「触らないでください」



その指先をまたパシッと叩き払いながら感じるのは、この人は愛想はいいけどそれ以上にチャラチャラしているということ。



「じゃ、マユちゃん」

「……なんですか、その呼び方」

「真弓、でしょ?だからマユちゃん」



マユちゃんって……初めて呼ばれた。

こういう顔というか性格だから、名前からあだ名などをつけられたことがないこともあって、その呼ばれ方に違和感しか感じられない。



納得できない私の一方で、桐生社長は話を続ける。



「正式な異動は来月からだけど、三木としてはすぐにでも異動してほしいそうだから、今日からここで仕事始めてくれる?今の仕事の引き継ぎは合間にでもしてもらって」

「はぁ」



今日からって……急な話だ。それほど三木さんが限界ということだろう。

新しい仕事に今の仕事の引き継ぎに、と一気に増えたやることに自分の顔が渋くなるのを感じた。



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