甘いささやきは社長室で
「なん、で……」
どうして、泣いているんだろう。
なんで
私、間違ったことなんて言っていない。
正しい選択をして、秘書として正しくいる。
だけどこの涙がきっと、本音の証。
隠しきれない本当の気持ちは
後悔してると、いう気持ち。
わかってる。
花音さんのほうが、家柄はもちろん、見た目も中身も彼に相応しい。
私みたいな会社員ではつりあわない。
だけどそれでも、彼の隣にいたいの。
あなたが社長だから、なんて言葉で嘘つきたくないの。
キスも、触れる肌も、ひとつひとつが愛しいから。
へらへらとした、余裕のある笑顔
だけど本当は臆病で優しい心
そんなあなたを知っているから、この想いは誤魔化すことも隠すこともできない。
桐生社長のことが、好きなんだ。
その気持ちを実感し、両手で涙を拭うと、三木さんはグラスをテーブルに置き私をまっすぐ見つめた。