甘いささやきは社長室で



「秘書課の責任者として働く者がこれを言っていいのか分かりませんが……自分は、秘書としての正しい選択が、人として正しいとは限らないと思います」

「え……?」

「真弓さんは、会社や社長のためを思って身を引いたのかもしれません。けど、真弓さんが女性として桐生社長という男性を想うのなら、正しさなんていらないと思うんです」



私がひとりの女性として、桐生社長ではなく、“桐生祐輔”を想うのなら。

正しさなんて、いらない。



「必要なものはたったひとつ、あなたが社長をどう思っているかですよ」



三木さんの言葉は、ズシンと心に沈む。



大切なのは、私の彼への想い。

この大きな、愛しさひとつだけだ。



小さく頷くと、三木さんは濡れたままの頬を拭おうと私の頬へ手を伸ばす。



「っ……触るな!!」



その瞬間、突然テーブルをバン!と叩く音と響いた大きな声。それとともに、伸ばされた腕が三木さんの手を引き離した。



「え……?」



驚き座ったまま見上げれば、そこにいたのは桐生社長だった。



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