甘いささやきは社長室で



「花音とは、ちゃんと話してきたよ。……好きな人がいるから結婚できないって、話してきた」

「え……!?なにを、言って……」

「確かに僕は社長という立場で、会社のことを一番に考えるべきだ。けど、気づいた気持ちに嘘はつけない」



花音さんに話してきた、なんて。

私への想いなんて、ただの錯覚。一時的なものにすぎない。それを本気にして、結婚まで断ってしまうなんて。



バカじゃないの?

社長としての自覚あるの?

……そう、思うのに。



「マユちゃんのことが、好きだよ。他の誰の意見も関係ない。僕自身の心が選んだんだ」



その言葉が、嬉しい。

はっきりと言い切る『好き』のひと言に、ポロポロと涙がこぼれる。見られたくなくて俯くと、出てくる言葉はまた素直さのない言葉。



「……また、そんな誰にでも言ってそうなこと言って」

「信じてくれなくてもいいよ。信じてくれるまで、何度だって言うから」



そんな私の言葉に、桐生社長は指先で優しく涙を拭う。



「僕はいつだって、こうして君の涙を拭える存在でいたい。笑顔だって、怒った顔だって、全部を独り占めしたい」



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