甘いささやきは社長室で
「……だけど、そんなあなたが、嫌いじゃないです」
それは、自分が抱くこの心。
秘書としてではなく、ひとりの人間として。社長ではない、彼を、想う気持ち。
三木さんが言っていた、たったひとつの大切なもの。
「むしろ好きだと思えてしまうから、困る」
あなたを好きだと、いう気持ち。
微笑み言った私に、桐生社長は柔らかな笑顔を見せると、両腕で私を抱きしめた。
こちらを見ているだろう周囲の人目も気にせず、強く強く、抱きしめる。
「じゃあ、もっともっと困ってよ。僕のことだけ考えて」
笑いながらそんなことを言って、彼はそっとキスをした。
これまでで一番優しいそのキスからは、深い愛情が伝わった気がした。