甘いささやきは社長室で



「……だけど、そんなあなたが、嫌いじゃないです」



それは、自分が抱くこの心。



秘書としてではなく、ひとりの人間として。社長ではない、彼を、想う気持ち。

三木さんが言っていた、たったひとつの大切なもの。



「むしろ好きだと思えてしまうから、困る」



あなたを好きだと、いう気持ち。



微笑み言った私に、桐生社長は柔らかな笑顔を見せると、両腕で私を抱きしめた。

こちらを見ているだろう周囲の人目も気にせず、強く強く、抱きしめる。



「じゃあ、もっともっと困ってよ。僕のことだけ考えて」



笑いながらそんなことを言って、彼はそっとキスをした。

これまでで一番優しいそのキスからは、深い愛情が伝わった気がした。







< 181 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop