甘いささやきは社長室で
「あ、そうだ」
「はい?」
不意に手招く彼に、なんだろうと近づいていく。そして隣に立つと、突然腕をぐいっと引っ張られ、彼は私の頬に小さく口づけた。
「仕事終わったら、今夜はデートしようね。絵里」
ささやく言葉と、『絵里』の名前。
それらが、私たちの関係が進んでいる証だ。
「……はい」
笑みをこぼしてうなずくと、彼も笑顔でうなずいた。
愛しい瞬間が、積み重なっていくのを感じる。
ずっと安定を求めていた。だけど、知ったんだ。
好きな人となら、どんな困難も越えていける。越えてみせると思えるのだということ。
その思いを抱けるほど大切な人と出会えることは、安定した毎日より幸せなことだということ。
いつだって笑顔で抱きしめてくれる、あなたとならどんな時だって。
微笑むふたりのこれからを見守るように、水槽の中の魚たちがゆらりと綺麗に泳いだ。
end.