甘いささやきは社長室で



「ん?どうかした?」

「いえ、ビストロ・エメってどこかで聞いた覚えがある気がして……」

「そりゃあ取引先だからねぇ。伝票とかで自然と目に入ってたんじゃない?」



そう話していると、コンコン、とドアがノックされた。



「はい、どうぞ」



言いながらイスから立ち上がると、開けられたドアから姿を現したのはここまで案内してきたのだろう総務課の女性社員。

そしてそれに続いて現れたのは、スーツ姿に黒髪のやや小柄な男性だった。



見た感じ僕と同じくらいの歳だろうか。二重の目をにこりと細めて、愛嬌のある表情をしている。

すぐ部屋をあとにした女性社員に丁寧に一礼をすると、彼はこちらを見た。



「いつもお世話になっております、ビストロ・エメの代表取締役、椎葉と申しま……」



……かと思えば、僕の隣に視線を留め、驚いたように目を丸くした。



「……絵、里……?」



『絵里』、?

って、え?知り合い?



呼ばれた本人であるマユちゃんを見れば、普段は表情の硬い彼女も、めずらしく目をまん丸にして彼を見ている。



「尊……?」



『尊』、?

って、え?やっぱり知り合い?



それには僕も驚き、問いかけずにはいられない。



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