甘いささやきは社長室で
「それにしても、そのドレスよく似合ってるね。綺麗だよ」
「それはどうも」
椎葉社長の柔らかな口調に対し、彼女の態度は相変わらず冷たい。
けれど、そんな冷ややかな言葉に対しても、椎葉社長は慣れているかのように笑った。
「思えばもう、別れて2年くらい経つんだね。早いなぁ」
「……そうだね」
「俺さ、絵里に『安定感がないから』ってフラれたのが悔しくて、あれから頑張ったんだ。会社もそれなりに立派になったし」
ちらりと見えた、ブラックライトに照らされる横顔は、真剣なもの。その表情ひとつで、その言葉の続きが簡単に想像ついた。
「だから改めて、もう一度付き合ってもらえないかな」
それはやはり、的中した。
別れた元彼女。だけど、彼にとって大きな意味を持つ言葉を与えた人。
彼の告白に、こちらに背中を向けたままの彼女の表情は見えない。
けれど、その背筋は今この瞬間も、ピンと伸びたまま。