甘いささやきは社長室で
……褒めてるんだか、けなしてるんだか。
でも、心配したり、嫉妬から意地悪いことを言う必要なんてなかった。
彼女の笑顔とひと言だけで、気持ちは充分伝わってくるのだから。
「椎葉社長、少しよろしいですか?」
「あぁ。じゃあ、ゆっくりしていって。……真弓さん」
『絵里』からほんの少し線を引くかのように、彼はそう呼ぶと、軽く手を振りその場を後にした。
マユちゃんはそんな彼に小さく頭を下げると、遠ざかる彼を見送る。
そして完全に椎葉さんがいなくなったことを確認すると、くるりと僕の方を向いた。
「……で、なにしてるんですか。桐生社長」
「えっ!?」
って、バレてた!
冷静に問う彼女に、僕は隠れていた場所からゆっくりと姿を現わす。
「き、気づいてたの?」
「えぇ。水槽にバッチリ映ってましたから。尊……椎葉社長は気づいてなかったようですけど」
水槽を指差す彼女に、バレていないと思っていた自分が恥ずかしくて、苦笑いをした。