甘いささやきは社長室で
「へぇ……そこまで嫌われると、むしろ燃えるねぇ」
「え……?」
その瞬間ずいっと距離を詰め、視界が彼でいっぱいになったと思った時には、その唇は私の唇に重ねられていた。
「んっ……!?」
驚き顔を離そうとするものの、いつの間にかその手は両手で私の頬を包むように添えられており、離れられない。
触れて離れて、角度を変えてまた触れる。求めるように吸いつくと、舌を絡め、呼吸する隙さえも与えないように口付けた。
「んっ……ふ、ん……」
突然のその行為に驚き、手からは力が抜けてしまい、箱はグシャッと床に落ちてしまう。
けれどそれすらも気に留めず、その唇は触れたまま。
自由になった両手で拒むようにドン、ドンとその胸を叩くと唇はようやく離れる。
互いの間に「はぁ」と息が漏れた瞬間、力が抜けそうになる足をぐっと踏ん張った。
「な……に、を」
精いっぱいの声を搾り出し問うと、彼はふっと笑う。
「どう?嫌いな奴にされるキスは」
「なっ……!」
キスをされたうえにバカにされた、そう気づいて、かっとした衝動のまま手を振り上げた。けれど桐生社長はその手をパシッと掴むと、笑みを浮かべたまま私を見る。
「そういう顔もできるんだ?いいねぇ、もっと崩してやりたくなる」
「っ……最低」
「あはは、褒めてる?」
ストレートな悪口すらもきかないらしい。常に余裕のあるその態度に、思い切り腕を振りほどいた。