甘いささやきは社長室で
「定時であがらせていただきます……失礼します」
歩き出すと、足もとに落ちていたケーキの箱を踏んでしまう。けれどそれを掃除することもなく、私は黒いパンプスでカツカツとその場を歩き出した。
「お疲れさま、また明日ね」
社長室の茶色い大きなドアが閉まる寸前に、社長はそうひと言つぶやく。隙間から見えたのはまるで、イタズラを成功させて楽しそうに笑う、子供のような表情だ。
その表情に余計頭の中はかっとして、思い切りドアを閉めた。
「っ〜……」
なんなの。
なんなの、なんなのよ、なんなのよあいつは!!
へらへらしてると思えばいきなり近づいて、キスをして。
『どう?嫌いな奴にされるキスは』
どう、なんて、笑ってみせるなんて。
「っ……最低……」
本当に、なんなのよ。