甘いささやきは社長室で
つかみどころがありません
昨日の感触が、忘れられない。
触れた唇、絡んだ舌と混じり合う吐息。
あんなにも熱く、求められるようなキスは初めてで、一晩経っても記憶から消すことができないでいる。
「……いきなり、なんで」
朝、目を覚ました私は顔を洗おうとやってきた洗面所で、鏡に映った自分の唇をぼんやりと見つめていた。
薄いピンク色の、小さめの唇。そこに残るのは、昨日の桐生社長の唇の感触で……って、なに思い出してるんだか!!
はっと我に返ると、その感触をかき消すように水でバシャバシャと顔を洗った。
最低なキスから一夜明け、昨夜は上手く眠ることが出来なかった。これで2日も連続して、彼のせいで睡眠不足だ。
まさか、なんで、とついていけない半面、ぼんやりとする頭の中では、夢だった気さえする。
けどきっと現実で、最低なからかい方をされたことが少し……いや、かなり悔しい。
どんな顔して会えばいいんだか……。
恋人だったら、キスの後はなんだか恥ずかしいような、甘酸っぱい空気になるだろう。
けれど、あのキスの相手は他人。それどころか、社長という立場の人。どんな顔をしていいかよけいにわからない。