甘いささやきは社長室で
「意外。昨日のキスでもう顔見るのすら嫌がられるかと思ってた」
「えぇ、嫌ですけど」
「嫌なの!?」
躊躇いなくうなずくと、彼はショックそうに声をあげた。
「嫌すぎて開き直りました。そのチャラついた根性叩き直してやります」
「叩き直してやる、ねぇ……もしかして、結構怒ってる?」
「当然です。社長としても人としても最低ですから。……ましてやキスなんて、不快です」
『不快』、そうはっきりと言い切る。すると桐生社長は綺麗に磨かれた革靴をコツ、と鳴らしながらゆっくりとこちらへ近づいた。
「じゃあ、そのキスが快感になったら怒らない?」
「は?」
快感に、なんてまたバカなことを言っている。そうさらに感じた不快に眉間にシワを寄せると、隙を突くようにまたその顔はずいっと距離を詰める。
けれど、そのまままたマヌケに唇を奪われるような私ではない。
手元のスケジュール帳でその顔をパシッと押しのけると、彼は「いてっ」と小さく声をあげた。
「そういう言動も不快です。セクハラで訴えますよ」
「……つつしみまーす」
からかおうとしたところを私に反撃され、桐生社長は苦笑いで私から離れると椅子に腰を下ろした。
すると、そのタイミングで響いた『コーケコッコー』の鶏の声の着信音に、彼は胸ポケットからスマートフォンを取り出し電話に出た。