甘いささやきは社長室で
「だからデートって言ってもやましいことはひとつもないよ。女の子も言わば、みーんな仕事相手」
そう私をからかうように、桐生社長は人差し指で私の鼻をツン、とつついた。
「……けど、毎回違う女性を連れているのは、周囲からの印象はどうかと。社長としての品位とかないんですか」
一瞬感心しかけたものの、それでもなお否定的な態度で言う。
「あはは、品位なんてそんなのあっても業績は伸びないからねぇ」
『業績』、そのひと言を口にした一瞬だけ、穏やかなその目の中に真剣に灯る光が見えた気がした。
「まぁ、そういうやり方を否定する人は当然いるし、最初は親も反対してたけどね。それでも結果会社は上手くいってるから、僕は間違っていないと思う」
それは、社長という立場の彼の意見。
当然頷けない人は沢山いて、それでも『間違っていない』と言い切れるのはそれほどまでに誇りや自信がある証だろうか。
「マユちゃんもそういう働き方は嫌いそうだね」
「そうですね。どの人にもへらへらチャラチャラする仕事のやり方はいかがなものかと」
「えー?そんなカタいこと言ってるからその歳で処女なんじゃない?」
「なっ!?」
けれど、そんな真剣な顔を見せた直後に、その口から飛び出した、突然の『処女』発言。
いきなりなにを言うのかと動揺した私に、それまで黙って空気のように運転をしていた来栖くんも、さすがに「ゴホッ」と席をひとつした。
初対面の人にまで聞かれたという恥ずかしさから、頬を赤く染めながらも、私は目をギッと釣りあげてその緩んだ顔を睨みつける。