甘いささやきは社長室で
「ちょっと!その話誰から聞いたんですか!」
「営業部の向井さんから。ちょっとお願いしたらすぐ教えてくれたよ?」
「ほのかのやつ……!!」
『営業部の向井』といえば、ほのかしかいない。ほのかのおしゃべり……!!
心の中で怒りを燃やせば、ほのかが『ごめーん』と軽い笑顔で手を合わせているのが想像ついた。
そんな私の怒りも気にせず、彼は足を組みにこりと笑う。
「男慣れしてないだろうとは思ってたけど、まさか処女とはねぇ。そんなピュアな子にいきなりあんなチューしたら怒るよね?ごめんねー?」
その言い方は本当に申し訳ないという態度ではなく、小馬鹿にしているというかからかっているというか……とにかく、不愉快を感じさせる言い方で、余計に私をイラッとさせた。
「っ〜……本当嫌い!大嫌いです!あなたが社長なんて認めたくないです!!」
「あはは、マユちゃんが認めなくても社長は僕だからなぁ」
頬の熱い顔を思い切り背け、社長とは反対側の窓を見ると、いっそうおかしそうに笑う声が聞こえた。
「けど、ただの女好きじゃないって知って、ちょっとは見直してくれた?」
それはまるで、ほんの少しだけ見直したと感じていた私の心の中を読むかのような問いかけ。笑い混じりの問いに、私は窓の方を向いたまま答える。