甘いささやきは社長室で
「じゃあ、今夜一緒にごはん行こうよ」
「は?」
一緒に、ごはん?
予想もしなかったそのひと言に、キョトンとしながら首をかしげると、彼は一歩近づき指先で私の唇にちょんと触れる。
「思えばマユちゃんの歓迎会してなかったし、これからよろしく会ってことで。ね」
歓迎会……。そう口にすればいい響きだけれど、この男とふたりきりと思うと危険しか感じられない気もする。
けど、それを餌に仕事を頑張ってくれるのなら、いいか。
「……わかりました。終われば、ですけど」
「よーし、そうと決まればがんばろーっと」
小さくうなずく私に、桐生社長は嬉しそうに笑いながら、気合を入れて席に座りなおすと仕事を再開させた。
歓迎会を兼ねての、ごはん……。
私との食事が、なんでご褒美になるのよ。意味がわからない。
そういう言い方をすれば、喜ぶと思われてる?
……なんて、そんなチョロい女じゃないんだから。
心の中でそうつぶやきながら、定時までに終わってほしくないような、ほしいような、複雑な心が込み上げた。