甘いささやきは社長室で
「安定ばっかり重視した生活のなにがいいんだか……私は真面目だけが取り柄な人より、冒険心のあるイケメン社長のほうがいいと思うけどねぇ。例えば、うちの社長みたいな」
ほのかがそう言って手に取るのは、デスクの上に置かれていた、とあるビジネス経済誌。
その雑誌の後ろのほうのページを開くと、そこに載っている人物を私に見せた。
「『今食品流通業界で一番注目されている若社長、セントラル・フーズ代表の桐生祐輔社長……』って、あれ、もしかしてこれ」
「そ。うちの社長。すごいよねぇ、こうして見るとまるで芸能人みたい」
ほれぼれとほのかが見つめるページに掲載されているのは、『注目の若社長!』というコーナーでインタビューに答えているうちの会社の社長。
少し長めの茶色い髪を左でわけ、通った鼻筋と二重の目が印象的な綺麗な顔立ちの彼は、イスに座って写真に写っている。
それだけにもかかわらず、確かにモデルのような雰囲気を漂わせている。
「桐生祐輔、ねぇ……確か、親がうちの親会社の社長なんだっけ」
「そうそう。でもただの七光りじゃないのよ?自分の親の経営方法から自分なりの経営方法に一新して、以来業績もぐんぐん伸ばしてるんだから」
「へぇ……」
興味があるようなないような反応をする私に、ほのかは「またそんなつまらない反応!」と口を尖らせる。
親も社長で本人も社長、ぞくにいう御曹司ってやつだ。
ほのかはこういう人との結婚を夢見ているんだろうけど……私にとっては対象外。ましてやお金があってイケメンなんて嘘くさい。
そんな気持ちで、見せられた雑誌をパタンと閉じた。