甘いささやきは社長室で
「お飲物と、本日の前菜・カプレーゼになります」
するとやってきたウェイターがテーブルに置いたのは、カットしたトマトの上に白いモッツァレラチーズがのせられたカプレーゼ。
かけられたバジルソースと添えられたリーフが彩りよく綺麗だ。
「おいしそう……」
「だね。いただこうか」
フォークとナイフを手際よく扱い食事を始める彼に、見よう見真似で私も食事を始める。
モッツァレラチーズをひと口食べると、ふわふわのムースのような食感が広がった。濃厚なチーズの味にみずみずしいトマトがアクセントになる。
「おいしい……!」
思わず出た言葉に、桐生社長はふっと笑う。
「でしょ?このチーズね、うちが卸してる食材なんだよ。ガーデングループ株式会社、って取引先であったでしょ」
「え?」
うちの会社が卸してる……?
たしかに、ガーデングループ株式会社って取引先があった気がする。この店はその中のひとつだったんだ。
「シェフの腕がいいのはもちろんだけどさ、でも根本的な味は食材がよくてこそ出せるものなんだと思うんだよね」
「食材が、よくてこそ……」
「このチーズもね、北海道の酪農家が作ってるものなんだけど。営業部の男の子があらゆるツテで見つけた酪農家さんで、『都会のレストランには卸したくない』って頑固だったオヤジさんを口説きに口説いてやっと契約して貰えた取引先なんだ」
その時の苦労を思い出しているのだろうか、懐かしむように笑いながら桐生社長はチーズをひとくち食べた。