甘いささやきは社長室で
「レストランの経営者と食品卸売会社……どう考えても政略結婚なんだろうけど、あれだけお似合いならいいよねぇ」
政略結婚、ねぇ……。
そんな話をしながら閉まるドアから見えた外には、別れを惜しんでいるのだろうか、笑って会話を交わすふたりの姿がある。
確かに、美男美女というか……恋愛映画のワンシーンのようだ。ほのかの『お似合い』の言葉にすんなりと頷けてしまうくらい。
その景色がなぜか、心の奥に小さくチクリと刺さる。
……っていうか。あんなかわいい婚約者がいて、キスなんてしたの!?
秘書にキスをするというだけでも最低な行為だと思っていたけれど、一層最低な行為に思えてしまう。
自分には普通にしていても女性が寄ってきて、さらには婚約者もいる。だから経験もなく相手もいない私をからかってやろうということだったのだろう。
そう思うと、余計に腹立たしい。
「で、絵理合コンどうする?行かない?」
「行く。絶対行く」
「え?どうしたのいきなり、そんな気合い入れて」
こうなったら、私は私でさっさと相手を見つけて、あの男がからかえないくらいの女になってやるんだから。
そう、婚約者なんて用意されていない私は、自ら動かなければ始まらない。
気合いを入れて頷いた私に、隣のほのかは不思議そうに首をかしげた。