甘いささやきは社長室で
「ん?どうかした?」
すると、まじまじと見てしまっていた私の視線を感じたのか、不意にその目はこちらを向いた。
突然自分を映したその目に、私はハッと我に返る。
「えっ、あ……いえ」
はっきりと言わず濁した答えに、桐生社長は不思議そうな顔をしながらも、「あ」と気付いたように笑う。
「もしかして僕に見惚れてた?そっかそっか、そんなに見惚れるくらい僕に会えるのが待ち遠しかったか〜」
「……そうですね。お待ちしてましたよ、仕事がたまってますから」
「うわぁ……」
調子に乗るような言い方をした彼に、すぐいつも通りのペースでそう答えると、ヘラヘラとしていたその顔は一瞬にして苦笑いになった。
……けど、婚約者とか政略結婚とか、そういうのを聞くと、彼は本当に御曹司だったのだと思う。
違う世界の、人みたいだ。
同じ部屋で仕事をして、こうしてなにげない会話を交わしても。住む世界が違う、そう感じる。