甘いささやきは社長室で



「ねぇ、真弓さんこの後どうする?」

「え?」



すると、突然彼が小声で問いかけた意図がつかめず首をかしげた。



「よかったら、この後ふたりで飲みなおさない?俺、もっと真弓さんのこと知りたいなって思って」



ふたり、で……。

思わぬ話の展開に、驚きすぐには頷けない。



下心があっての誘いだろうか。純粋に親しくなろうと思ってくれているのだろうか。

でも、知りたいと言われて悪い気はしないし……。

そう少し考えていると、平山さんの胸ポケットではスマートフォンがヴー、と音を立てる。



「っと……電話だ。ちょっと失礼」



平山さんはスマートフォンの画面を見ながらそう席を立つと、一度部屋を後にした。





……どう、しよう。

合コンで出会ってすぐふたりで飲むなんて、軽い女だと思われる?

けど、もしかしたら本当に純粋に、下心なんてないのかも。



いい人そうだし、誠実そうだし……異性に対して免疫や経験の乏しい自分の予想はアテにはならないけれど、『いい人そう』というか『いい人だろう』と信じたい気持ちが強い。

そう。そうだ。出会いから発展するには、動かなければダメだ。



ふたりで話して、少しずつ知って、付き合っていければいい。



「……よし、」



そう心に決めると、ふと、トイレに行こうと思い私は席を立った。


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