甘いささやきは社長室で



聞き間違い?声が似てるだけで実は別人とか……。

そう考えているうちにガチャリとドアは開けられ、そこから姿を現したのは案の定というかなんというか……スマートフォンを胸ポケットにしまう、平山さんだった。



彼は、トイレの前で固まっていた私を見て「わっ」と一瞬おどろくものの、徐々に苦い顔になる。



「ま、真弓さん……どうしたの?こんなところで」

「お手洗いに来たところで」

「そ、そっかー……あー……聞いてた?」



そのまま一度はしらばっくれようとしたのだろうけれど、ただでさえ愛想のない私が一層冷ややかに向けた視線に誤魔化せないと察したのだろう。

恐る恐る問いかける彼に、私は頷く。



「えぇ。なので、今夜の件はお断りします」

「そう言わないでよ、ね」



先ほどまでの、チャンスは自分で掴まなければと思う気持ちは、彼に奥さんと子供がいると知った途端にサーッと引いていく。

そんな私の機嫌をとるように彼は笑顔で私の肩に手を置いた。



「触らないでください。奥様とお子さんがいらっしゃるんでしょう?」

「たまには息抜きもしたいんだって。それに俺、真弓さんみたいな顔の子好みなんだよね」

「ふざけないで……」



反論を遮るように彼は壁に手をつくと、私を壁際に追い込む。



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