甘いささやきは社長室で
「き、桐生社長?どうしてここに?」
「帰るよ。荷物取ってきて」
「は?なにをいきなり……」
いきなり現れていきなり帰らせるだなんて、なにを言っているのか。
そう戸惑い躊躇う私に、腕を引いていたその手は離されたかと思えば、唐突に私の顎を掴む。
「社長命令」
一瞬笑顔が消えたその顔から発せられたひと言に、全身がゾクッと微かに震える。
お、怒ってる……?
いつも読めないその表情が、分かるくらいに明らかに示された。そのことに逆らわないほうがいいと察した私は、おとなしく従い個室へと荷物を取りに向かった。