甘いささやきは社長室で
優しいなぁ……年上の余裕というか、母親のようというか。
その優しさに感心しながら、私は桐生社長とともにお店を出て隣の会社へと戻る。
上に向かうべくエレベーターのボタンを押すと、頭上では6の数字が光り、1階ずつ降りてくる。
「めずらしいね、三木とご飯食べてるなんて」
「偶然です。席が空いてなかったので三木さんが座らせてくれたんです」
「へぇー。で、なんの話してたの?随分楽しそうだったみたいだけど」
楽しそうって……。会話を探るように問うあなたの話ですよ、とは言えず、そのひと言を飲み込んだ。
「内緒です。個人情報ですから」
「へー?三木とふたりで笑顔になっちゃうようないいお話、ふたりだけの秘密にするんだ?」
「そうですね」
嫌味っぽいその言い方に、流すように頷くと、ちょうどついたエレベーターに先に桐生社長を乗せてから自分も乗り込んだ。
言い方がまるで子供……。
ふたりきりの狭いエレベーターの中、心の中で呆れたように笑って、私は12のボタンを押す。すると突然、そこに大きな手が重ねられた。